★ハムの憂鬱★
             
(2000/09/09)



ハムスターは憂鬱である。人間に保護されながら、エサや巣箱まで

与えられるという、経費丸抱えの人生を送りながら、ハムは憂鬱である。

この原因は人間にある、ということがハムにはわかっている。しかし、人間の側は

理解しようとしない。いや、理解できないのだ。ゆえに、ハムは憂鬱である。


ハムはヘビが嫌いだ。あいつらは、反射的に行動する。そしてたいていの場合、

反応は攻撃的で、何にも考えずに、いきなり襲いかかってくる。あいつらは嫌いだ。

しかし、人間というと、その反対に、あまりにもいろいろ考えすぎるのではないか。

嫌い、という訳ではないのだが、人間には、どうにもやりきれないところがあるのだ。


そもそもは、脳の数の違いから起こった。ヘビの脳はひとつ。こいつは、

原脳とか、反射脳とか呼ばれる。俗に爬虫類脳というやつで、自分以外は敵。

兄弟愛も母性本能もない、ただただ生きんがための脳である。四則演算しか

できない電卓程度で、メモリーもほとんどないに等しい。


原始哺乳類、とか、キネズミ科、とはあんまりな呼び方だが、ハムの仲間には、

脳がもう一つある。情動脳、あるいはもっと適切には感情脳である。この脳は、親兄弟

同族に対する愛情をつちかい、嗅覚や味覚に満ちた豊かな世界をもたらした。

もちろん反射脳も持ち続けているから、非常・緊急に際しての対応にも手抜かりはない。


問題は人間だ。更に余計な第三の脳、理性脳というヤツがあるらしい。この脳こそ、

大昔はハムの仲間を食糧として追い回した張本人であり、現代では、同じ齧歯類を

愛玩物として処遇する、という矛盾した厄介な働きを、平気でやってしまうシロモノである。

この脳は、今でも、ハムを、エサでありペットである、という二通りの目で眺めることを

やめない。犬や猫の運命を見ればわかる。


この新哺乳類脳は、人間同士の世界でも、複雑な事態を引き起こしているようだ。

同級生をいじめたり、家庭の中で暴力を振るったり、ということが頻繁にあるらしい。

もちろん、高等な猿、特に霊長類に特有の現象で、ハムたちの世界にはない。

それもこれも、悪性腫瘍としか思えない、あの第三の脳のせいだという気がする。


人間はハムに、結構良くしてくれている。だからハムも人間は好きだ。

しかし、何をするかわからない「あやうさ」、が人間にはある 

         …… ハムは憂鬱である。