★イブの旅路★
             
(2000/11/25)



人類進化の歴史は、ミッシングリンクの超人的な探求者達のおかげで、近年、

相当な物証が蓄積されて、かなり明らかになってきた。進化の段階を、猿人、

原人、旧人、新人、と四区分することは、もはや、ほぼ異論のない状況である。

また、猿人、原人は、最初、アフリカに発生したという。この地を最初に脱出した

原人が、まず世界各地に広まった。脱出原人のなかには、滅びたものもあるが、

定住した地域で、次の段階の旧人に進化した場合もあるという。その典型が、

ネアンデルタール人である。余談であるが、中国には、北京原人が、そのまま

何ら変化することなく、現代中国人になったという、物凄い学説もあるらしい。


ミトコンドリアは、大部分の動物細胞に含まれている。宿主細胞へのエネルギー

供給を主な役割としている。元々は、独立した生物だったものが、動物細胞に取り

込まれ、共生するようになったと言われている。動物細胞の中には、別の生物が

いるのである。もしも、このミトコンドリアが独自の意志を持ち、宿主である細胞を

支配しようとするなら …… 「パラサイト・イブ」とかいう映画もあった。

ちょっと、無理の多い設定・配役だったような気もするが。


ところで、ミトコンドリアのDNAは、環状構造をしている。環状構造のDNAは、

大腸菌などにも見られるが、これは、不死性を持った構造である。もうひとつ、

ミトコンドリアのDNAには、母性遺伝という特性がある。母親側のDNAだけが子孫に

伝わるである。ヒトの体細胞は六十兆個、その各々に平均数百のミトコンドリアが

含まれ、それぞれが数個のDNAを持つ。「母は強し」ということには、実に、こうした

生物学的裏付けがあったのである。


人類のルーツ・アフリカ、ここで、約500万年前、ヒト(猿人)とチンパンジーが

分かれた。次に、猿人と原人が分かれた。そして、この原人が約180万年前、最初の

アフリカ脱出を敢行した。とすると、原初アフリカにいた原人の女性が持っていた

ミトコンドリアのDNAが、その後の、全世界・全人類のミトコンドリアのDNAの元祖

というとになる。そこで、すべての人類の母という意味で、この女性を「アフリカのイブ」

と呼ぶ。また、この仮説は、「イブ仮説」などと称される。


旧人と新人との関係として有名なのは、ネアンデルタール人とクロマニヨン人の

覇権争いであろう。一説では、最初にアフリカを脱出し、アルプスの北、現在の

ヨーロッパに到達した原人が、数10万年かけて、旧人・ネアンデルタール人に

進化したという。一方、新人・クロマニヨン人は、その間に、アフリカで誕生して、

そこで、長い時間をかけて進化したもので、相当遅く、10万年前ほどの昔、アフリカ

脱出をしたという。この北の旧人と南の新人は、中近東あたりで最初に遭遇した。

最終的には、クロマニヨン人が圧勝した。ネアンデルタール人は2万7千年ほど前、

イベリア半島に追いつめられたあげく、絶滅したという。ここに、クロマニヨン人が、

ヨーロッパの覇者となる。クロマニヨン人こそ、栄光の白色人種の祖であるという。

ネアンデルタール人の想像図は、逆に、毛深く、肌も黒く描かれることが多い。


            …… が、しかし ……


最新の研究は、大変な学説の逆転をもたらしつつある。ネアンデルタール人こそ、金髪、

碧眼で白い肌をしていた。逆に、クロマニヨン人は、髪も目も肌も黒かったはずだという

のである。気候条件から考えると当然だというのだ。日照量の少ないアルプスの北では、

ビタミンDの欠乏は、致命的な結果をもたらす。皮膚の色が黒かったなら、ビタミンDの

体内合成ができず、ついにはカルシウム不足による成長障害が起こる。反対にアフリカは

むしろ、紫外線が過剰なので、DNAの損傷が問題になる。たとえば皮膚ガンや目の障害

なども生じやすいので、黒い肌・目の方が、生存に有利である。したがって、生理学的には

ネアンデルタール人が白人で、クロマニヨン人が黒人でなければならなかった、という。

ところで、両者の体格については、復元骨格からすると、ネアンデルタール人の方が、

クロマニヨン人より立派であったという。何かと気になる脳の大きさであるが、現代人よりも

ネアンデルタール人の方が、やや大きかったとする説さえある。


ところで、時代は下る。カエサルの「ガリア戦記」を通覧するならば、ローマ人が心底

恐れていたのは、アルプスの北で常時対峙・対戦していたケルト人ではなく、むしろ、

更に北方に蟠踞していたゲルマン人であったことがわかる。また、ケルト人の諸部族も、

ゲルマン人がラインを越えて、南下してくることを、なぜか病的に恐れていた。ローマ、

ケルト、ゲルマン、この三つの民族中、ゲルマン人が最も雄渾な体格をしていた。そして、

金髪と碧眼こそ彼らの容貌の特徴である。タキトゥスは「ゲルマニア」の中で「鋭い空色の眼、

黄金色の頭髪、長大でしかもただ攻撃にのみ強い身体」と形容している。これこそ、まさに、

太古のネアンデルタール人の相貌そのものではないか。


「アフリカのイブ」とは、よく考えると、「アフリカ出身の原人のミトコンドリア」のことである。

現代ヨーロッパ人の大部分が、クロマニヨン型のミトコンドリアを持つことには異論がない。

ただ、ミトコンドリアだけなら、母親から貰えばよい。父からは、貰いようもないのであるが。

しかし、現代ヨーロッパ人は、北方に行くほど、濃厚にネアンデルタール人の形質を残して

いる。結論は一つだ。このことはつまり、イブについてはクロマニヨン人が、アダムについては

ネアンデルタール人が、それぞれ、ヨーロッパの覇者になったということなのだ。理由は?

クロマニヨン人の女性は、ネアンデルタール人の女性にくらべ、極めて多産だったのかも

しれない。いやいや、テバコラにはふさわしくないが、やや俗な推測を赦して貰うなら、

クロマニヨン人の女性は、ネアンデルタール人の男性にとって、結構魅力的な存在だった

のかもしれない。


   かくて、クロマニヨンのイブは、中近東、地中海、そしてアルプスの北へと旅を続ける


【補足】

1)前期旧石器時代について、最近、学問上の悲しいフェイクが明かるみに出ました。

  やりきれないのは、考古学者より、考古学ファンの方ではないでしょうか。

  悪いとは思いつつ、同時代の、ヨーロッパの方で憂さ晴らしをします。

2)三態写真は、「巨人族の行進−白色人種の歴史」という、かなりアブないサイトにあった

  もののパクリです。危険なサイトですので、あまり近づかない方が良いと思います。

  (なお、「白色人種」という概念は、生物学的には確立していません …… 念のため)