★ひだる神

             
(2001/03/08)



ひだる神という神は、人気のない野中や山中で出会うことの多い、

いわゆる「物の怪」の一種である。長時間、飲まず、食わず、

休まずの状態で歩いていると、突然、強い脱力感に襲われることが

あるという。これが、ひだる神に憑かれた、という状態で、ひどい

場合には歩くこともままならなくなる。一般には、これで一命を失う、

ということは稀にしかないらしく、ある程度の時間が経過すると、

脱力感は解消し、再び歩けるようになるらしい。回復を早めるには、

握り飯を食べたり、それもない場合は、手のひらに米という字を

書いて嘗めるとよい、とされている。


出現するのは、主に、西日本であり、有名なエピソードとしては、

水木しげる(鳥取県境港)や南方熊楠(和歌山県熊野)たちの

体験がある。水木しげるは、子供の頃、実際に体験した、と、その

自伝漫画に描いているし、南方熊楠は、その供の者が襲われた

状況について記録を残している。医学的に見ると、一時的な

急性低血糖症とも考えられるが、「ひだる神」、「ダル」あるいは

「ダリ」という妖怪のイメージは、広く信じられてきていたものである。


ところで、この語源にあたりそうなものを発見したので、ここに

書き留めておく。まだ、詳しく調べていないので、事実だけを記すが、

沖縄には、長い道を歩いたために「足だるさ(ん)」になった、

という表現がある。訓み下すと「ひさだるさ(ん)」である。鳥取は知らず、

熊野と沖縄には黒潮の道という、巨大ハイウェイによる繋がりもある。

「ひさだる」→「ひだる」という転訛は、大変容易に想像されることだ。

嘉利吉の邦の言葉には、非常に古い日本語を平然と現用している

部分がある。この「ひさだる」について、これから調べてみようと思う。


楽しみが増えた。