★タンカン哀歌★

             
(2001/03/25)



こちらに来てから、フルーツ売り場をよく覗く。


亜熱帯の当地では、色とりどりのトロピカル・フルーツが並んでいて、

眺めているだけで、充分楽しい気分になってくる。フルーツを摂りさえすれば、

栄養のバランスとかいう難題も、何となく解消してしまったような気になるから

不思議だ。進化論的にいっても、果実を実らせる段階になって、植物たちは、

その繁殖域を爆発的に広めるようになったという。ちょっと陰謀めいているが、

こんな陰謀なら、哺乳類の一員として、喜んで乗せられてあげよう。


しかし、さすがに暮れの12月ごろから、翌年の2月ごろまでは、このフルーツ

売り場が、ぐっと寂しくなる。種類が大幅に少なくなるのだ。この時季に売り場を

大きく占めるようになるのがタンカンである。こちらの特産らしい。本島でいうと

山原(ヤンバル)、つまり国頭(クンジャン)地方が生産の中心らしい。

あまり内地には出荷されていなかったが、この頃は、「ゆ○パック」などで

送ることも始まっているらしい。


柑橘類のチェックポイントは四つほどあるという。粒の大きさ、皮の厚み、

タネの有無、そして酸味の強弱がよくあげられる。もちろん、粒が大きく、

皮が薄く、タネが無く、酸味の無い柑橘が良いものとされる。ところが世の中

うまくしたもので、これらを全て満たすものは、現実には存在しないのだという。

オレンジ、蜜柑、果てはスダチに至るまで、あれやこれやを思い浮かべて

みると、確かにそのようである。


タンカンにも問題がある。皮が厚く、剥きにくい。そんなに多くはないが、

タネがある。大きさは? これは結構変わっていて、かなり大きなモノから

小さなモノまでいろいろある。要するに原始的に近い柑橘類なのだよ、

と断定する人もいる。そのかみ、崇神天皇の命を受けて田島守が南の島に

探し求めたという橘(たちばな)がこのタンカンだったら、と、想像するだけで

わくわくする。そんなタンカンであるが、味が抜群なのである。


酸味はほとんどない。オレンジに近い味である。また、香りが極めて高く、

品の良いシトラス・フレイバーが、あたりじゅうに漂うのである。皮が厚いのは、

カリタンの身にはむしろもってこいである。山盛りにしておいても、傷むことが

ほとんどなく、ときどき一個ずつつまみあげればよい。この季節には大変

お世話になった。大きさがいろいろあり、LLぐらいからSまであるが、

テバとしては、MからSが気に入っている。


春分も過ぎた今日、久しぶりに食品売り場に立ち寄る。ついにタンカンが

姿を消していた。かわりに、パパイヤ、パイナップル、パッション……などの、

「パーもの」が並びだしている。色彩が華やかになったが、かえって一抹の

寂しさを感じさせるものがある。そうか、タンカン一門の春は過ぎたのか

(実は冬だけど)。ここには、あの平家一門の運命を思わせるものがある。

LL級の清盛を喪い、L級の重盛も迅うに亡く、M級の忠度も姿を消した。

そして、ついには一門全てが海の藻屑と消えたのである(胃袋だけど)。


テバの部屋には若干の在庫があるが、すべてSである。中でも、この一番

小さいのは、きっと安徳天皇だろう。ふと、幼な児を見舞った過酷な運命を思う。


  公達の タンカンの香や 壇之浦