Ganot Collection を鑑賞する


ガノット氏(Adolphe Ganot@1804−1884)はフランスの人で、彼の理科の教科書は、

前世紀の後半、全世界で使われていました。本格的な近代物理学教科書としては

アンモナイト級の古さと普遍性を誇るものです。

英語バージョンの場合、1860年代から1890年代にかけて、

アメリカで盛んに使われたようです。


私の手許にあるものは、革装の1873年再版ものですが、初版は63年となっています。

明治初頭の欧米に派遣された貧乏留学生が、なけなしの生活費を切り詰め、

わずかなお金を握りしめ、
本屋の前で遅疑逡巡している光景が目に浮かんできます。

1インチ弱の厚さのものですが、これが、1893年の全面改定版になると2インチ半くらい

になっているようです。残念ながら、93年版の内容は見たことがありません。


ガノット氏(あるいは「ガノ氏」)の教科書の特徴は、何と言っても、

豊富な版画にあるとされます。版画自身のハンサムとしか言いようのない美しさと、

これを懇切に解説した本文との間に醸し出されるリエゾンの美しさ、

この二つの美です。……ガッコの教科書に「美」を感ずるというこの感性!

本文云々は、煩瑣なので省略しますが、何はともあれ、

版画の世界を純粋に楽しんで頂ければと思い上梓しています。