この教科書の中では最大級のガラス細工になると思います。万一これを破損したら、彼は年俸をフイにすることでしょう。その緊張のせいか、顔が引きつっています。



またまたガリレオ・ガリレイのことです。彼は直径が同一の鉄球と木球を使い、ピサの斜塔から同時落下実験をやったとされています。この時の情景を講釈師は、見てきたように語ります。

「二つの球は同時に地表に到達した。鉄球の鋭い音と、木球の鈍い音が同時に響いたのである。このとき、アリストテレスとカトリックが構築した壮大な中世も、音をたてて崩壊したのである」

実際にこのような実験をすると、必ず鉄球が先に地上に到達します。中世は崩壊しないのです。それは空気抵抗が落体に及ぼす作用の差なのですが、左の実験で管の中に空気を満たした場合に相当するのです。

それならなぜあのような講談が生まれたのでしょう。それこそが思考実験という実験の成果なのです。ピサの街をドームで覆い、内部を完全に真空にした場合にのみ可能な情景なのです。頭の中だけですね。思考実験は、時に、とてつもない成果をもたらします。相対性理論の根底には、一群の思考実験があります。そのため膨大な検証作業が必要になりました。

ロシアという国は、理想の平等社会・共産主義は構築できるという思考実験(イデオロギーともいう)にもとづき、70年も社会主義を検証してきました。この壮大な社会実験は、ロシア人が上から下まで異様に独裁を愛していたため、必要な条件を満たすことは一度もないままに終わったのです。

 【V.V.プッチン著「思考実験の歴史」】